書籍/BOOK

だれでも詩人になれる本

著者
やなせたかし
出版社
かまくら春秋社

内容

永年、多ジャンルにわたって第一線で活躍し、詩人としても多くのファンを持つ、御存知アンパンマンの作者やなせたかしさんが32年前に著した1冊の本がありました。90歳を迎える今年、満を持してファン待望のその名著が復活しました。いままで詩にまったく興味がなかった方でも、詩が学べ、だれでも詩をかいてみたくなる一冊です。

もくじ

1

第1部 詩への細道

2

第2部 星屑ひろい

3

第3部 風の口笛

はじめに

まず この本をかいたひとが どんなひとか 説明します
詩についてかくのですが 本人は詩人ではありません
それでも詩集と名のつくものは 十五冊 「詩とメルヘン」「いちごえほん」の編集責任者として
編集したり 詩やメルヘンの選をしたり 表紙の絵 詩の挿絵 カットなどをかいています
一ヶ月に約五篇の詩と 約五本のメルヘンと 約二百枚の絵をかきます
本職はCクラスの漫画家で 認める人とてありません
もちろん 詩人の仲間ではなく 誰にも師事せず どんな詩人全集をみても ただの一語の説明もありません
ぼくはひとつの心の表現の手段として 詩に近いかたちが 便利だと考えているだけで
だから このまえがきも こんなかたちでかいています このほうが読みやすい 話しやすい
そう思っているだけで たしかにこれは詩じゃないし これから先も詩はかかない
それなのに なぜこんな本をだすのかといえば たぶん あなたもそうだからです
ほとんど大部分のひとは そんなにたいした詩人じゃない
ぼくとおんなじように ごくありふれた人間で 血も涙もはなくそもある
しかし なんだかさびしくて この人生のギザギザの中 なにかしら 一瞬の心の安息をもとめ
たとえば詩の本を読んでみる たとえば自分でもかいてみる
しかし なんと現代語はむつかしくて 頭の痛むことでしょう それゆえ ぼくはこの本をかきます
ぼくとおんなじ人たちよ ぼくらは詩人じゃないけれど せめて心の奥底の 孤独あるいは激情を
なにかのかたちで話したい せっかくこの世に生まれたから 生きるしるしをみつけたい
まあ そういう動機から このちいさな本をかきはじめました
ぼくが詩人でないために むしろ第三者の立場から ごく率直に眺められるという点が あるいは利点かとおもわれます

本について

項目
詳細
単行本
270ページ
出版社
かまくら春秋社
言語
日本語
ISBN-10
477400426X
ISBN-13
978-4774004266
発売日
2009/2/9
梱包サイズ
18.8 x 13.2 x 2 cm

あとがき

この本は一九七七年に講談社から出版されてその後絶版になっていた「詩とメルヘンの世界」を改題・改訂・補筆・再編。かまくら春秋社から刊行することになった。
昔書いた本が復刊されるのはうれしいような恥ずかしいような気分である。
人生というのはとても不思議なところがあり、詩人でもなく詩人になる気もなく、漫画家と絵本作家を職業としているぼくがなぜこの本を出したのかヘンである。
この本を書いた当時、ぼくは「詩とメルヘン」という月刊誌の編集長をしていて(これもヘンですが)多くの投稿詩の選をしているうちに依頼されてこの本をつくった。
実は詩を読むのは好きだったが、教養不足のせいか現代詩が理解できず、自分の好きなわかり易い抒情詩だけの絵本形式の雑誌をサンリオから創刊した。思いがけずこの雑誌は好評で三十年間も編集長を勤めることになる。これが丁度アンパンマンの絵本をかきはじめた時と同じで、ぼくの人生はここでカタンと音をたてて変化してしまうのだ。
「詩とメルヘン」は経費節約のために、表紙デザイン・編集・カット・詩とイラストの選・ルポ・すべて自分でやったのでオーバーワークになり疲れた。
しかし思えばこのハードワークがよかった。一気にエンジン全開で疾走しないと仕事が間にあわなくなった。
やっとやなせたかしの世界というか、自分の作品の個性がくっきりと見えはじめた。
そしてアンパンマンの人気がではじめるとと同時進行で「詩とメルヘン」の仕事にも熱中することになる。
今読みかえしてみると訂正したい部分もあるし、時代の流れとしては別の詩にさしかえたいとも思うが、基本的にいって今でもぼくの詩に対する考え方は変わっていない。
このままでいいのではないかと思った。だから改訂と補筆は必要最小限にとどめた。
詩にはパターンはない。むしろパターンにはまらない方がいい。
どうしても詩がかけないというひとに、それでは友だちに話すように普通のあなたの地方の言葉で書いてみればと言ったことがある。
しばらくするとそのひとから便りがきた。
「ふしぎです。方言で書いたらスラスラと書けました」
傑作を書こうと考えすぎると書けなくなる。ごく気軽に自分の考えていることを書けばいいので、会話ができるひとなら誰でも書ける。
そしておそろしいことに五歳ぐらいの子どもの書いた詩が八十歳の巨匠の詩より面白かったりすることがある。
詩は詩人だけのものではない。喜怒哀楽の感情があれば誰でも詩人。あなたも詩人である。
下手も詩のうち、心にひびけばいい。
今またぼくは季刊誌の「詩とファンタジー」の責任編集をしている。「詩とメルヘン」の時にような激務はもう体力的に無理なのでほとんどかまくら春秋社のスタッフにお世話になっている。そして更に同社の伊藤玄二郎氏のすすめで忘れていたこの本を復刊することになった。
感謝すると同時にかまくら春秋社の今後の発展を祈りたい。
やなせ たかし