書籍/BOOK

アンパンマンの遺書

著者
やなせたかし
出版社
岩波書店

内容

「手のひらを太陽に」の作詞者でもある戦中派の作者が、自身の風変わりなホップ・ステップ人生を語る。銀座モダンボーイの修業時代、焼け跡からの出発、長かった無名時代、そしてついに登場するアンパンマン―。手塚治虫、永六輔、いずみたく、宮城まり子ら多彩な人びととの交流を横糸に、味わい深い人生模様が織り上げられていく。

もくじ

1

はじめに

2

起の巻 アンパンマン以前史

3

承の巻 アンパンマン創成期

4

転の巻 アンパンマン盛期

5

結の巻 アンパンマン未来期

はじめに

ぼくはだらしない性質である。整理整頓が苦手なのだ。新聞紙をきちんとたたむことができない。いつもカミさんに怒られていた。
そのカミさんが亡くなった。眼の前から消えてしまった。茫然自失、しばらく何もかも解らなくなった。
幸か不幸か、仕事は容赦なくいそがしく、混乱しながらも気をまぎらせることができた。
しかし、急に死は身近なものになった。身辺の整理をして、ぼくも自分の人生の晩年の旅の準備をしなくてはならない。
この本を書き始めた頃、ぼくはとても書ける状況にはなかったが、とりあえず構成は四コマでいこうと思った。四コマ漫画が好きだったし、これは偉大な人物の重厚な伝記ではない。吹けば飛ぶような軽い感じである。四コマ漫画ぐらいがちょうど適当と思って少しずつ書き進めた。
こつこつ日記を書くようにして書いているうちに、なんとかある枚数に達した。
ぼくが死ねば、アンパンマンがどういう風にしてぼくの中で育っていって世の中へ出ていったのか解らなくなる。遺書はぜひ書いておかねばとずーっと思っていたので、これは天が与えてくれたチャンスと思った。
もし、この本を書かなければ、だらしない性質のぼくは一日延ばしにしているうちに途中で挫折するのはほぼまちがいない。
戦後も五十年を経たが、ぼくの人生はまさに戦前、戦中、戦後を通過してきた。
いつ死んでもおかしくない激動の時代だった。ぼくはなんとか生きのびてきた。今は人生のオツリか附録のようなものだ。しかし附録が本誌より豪華ということもある。ぼくの附録は意外に良かった。
高位高官というのは望まないし、似合わない。雑草の暮らしがいい。
それにしても恵まれていたと思う。日隠の細道の名もない雑草としては、ちいさな花を咲かせることが出来ただけで望外である。すべての点で人後を落ちるぼくにしては上出来と、自分で拍手している。
大部分はアンパンマンのおかげである。このキャラクターにめぐり逢えたことが幸運だった。
アンパンマンはぼくの子供でもあり、ぼく自身でもある。この遺書はアンパンマンを通じて世間をへ公表するかたちをとった。
ぼくのパッとしない人生もケジメだけはつけておきたかった。
記憶はもううすれているので、ところどころ細部ではまちがっているかもしれない。でも大筋はこんなものである。
なんとか遺書を書きあげてほっとした。
一九九四年 一一月 二一日

本について

内容
詳細
文庫
288ページ
出版社
岩波書店
言語
日本語
ISBN-10
4006022336
ISBN-13
978-4006022334
発売日
2013/12/17
梱包サイズ
14.8 x 10.6 x 2 cm