「老いを迎える」とは如何なるものか、「死と向き合う」とは如何なることか。
墓を決め遺言書も書き身辺を整理して死ぬ準備はしたものの、乞われれば番組やステージで歌って踊る、こけつまろびつ迷い戸惑う93歳の老境の日々から見えてくる、「老い」の本質と現実。
内容
もくじ
- 1
第一章 想定外の晩年
- 2
第二章 狼爺さん
- 3
第三章 老いるショック
- 4
第四章 ああ!少年は老いやすく
はじめに
高齢者のための本を書いてくださいとか、長寿の秘密はとか、やなせたかしの名言集とかそんな本を依頼されることが多くなった。まことにお恥ずかしい次第である。ぼくは健康でもないし人生訓を言ったりするのは大嫌いである。
ぼくは健康ではないし、人生訓を垂れるにはぼく自身がまだ迷いに迷っている。「とても書けません」と言うと第三者に書かせるから監修してくださいなんて言う。とんでもないことだと思った。しかしぼくは血液型がABである。非常に断るのがへたでいつの間にやら、うやむやのうちに本ができてしまう。これもまことにお恥ずかしい。
この本も実は長い年月書きためてきたエッセイの中から選んでもらおうと思ったのだが、書き下ろしてくださいと言われた。九十三歳になって書き下ろしとは大変だと思ったが、今までの経験から言ってこういう仕事は今日は一枚、明日は三枚というふうにボツボツ書いているうちいつの間にやら完成するのである。
国会図書館で調べるといつの間にかぼくの書いた本は一千四百冊を越えている。(ただし三十年間編集長を努めた月刊「詩とメルヘン」と八年間編集長をしていた「いちごえほん」を含むぼくの関連した出版物すべての数字である)
「ヒェー!」とびっくりしてしまった。コツコツ書いているうちにいつの間にかそんな数になった。今度の本も仕事の合間合間に書きためていくうちになんとなくできあがってしまった。大半を書き下ろしで、そして一部書きためてきたエッセイを入れた形での完成だ。一つのエッセイは千二百字くらいで短いが、思わず輿が乗って長くなってしまったものもある。
すべて成り行きまかせである。教訓になるようには書かなかったつもりだが、ある意味での老境の道案内になることができれば幸福である。
しかしまさか自が本当の爺さんになり、こんな本を書くようになろうとは夢には思わなかった。いつまでも未熟な少年のままで、ぼくよりははるかに若い後輩からも「やなせさんは青いなぁ」と馬鹿にされていたのに、自分でもこんな本を書く自分が不思議である。
二〇一二年 九月
やなせ たかし
本について
- 内容
- 詳細
- 新書
- 224ページ
- 出版社
- アスキー・メディアワークス
- 言語
- 日本語
- ISBN-10
- 4048868632
- ISBN-13
- 978-4048868631
- 発売日
- 2012/10/10
- 梱包サイズ
- 17.2 x 11 x 1.6 cm